aの趣味場

趣味で書いてる小説などを投稿する予定です。

魔人に就職しました。第1話

達人―――


一言で言うならそれは物事の道を「極めた者」を指す。



極めるという事はとても困難であり、並大抵の事では成せない。
とても多くの時間と労力が必要になる。















20XX年 日本




「就職しないとな・・・」



そんな言葉をボーっとしながら呟くこの男。
彼の名前は最上悟《さいじょうさとる》。
彼は現代では珍しいある道を極めた者。つまり【達人】である。



彼はとある理由から[剣術]という今の現代ではまったくと言って良いほど必要の無いものの達人になった。いや、なってしまった男である。



「ん"、ん"~~」



体を伸ばし、歯を磨き、顔を洗い、朝食を取り、リクルートスーツに着替える。



「就職しないとな…」と言う言葉を呟いた時点で気付いていると思うが、彼がこれから行う事。



それは、就職活動である。



つまりこの男は今現在、無職《ニート》である。



本来なら大学に行きゆっくりと就職活動をするはずだったのだがその時間を剣術に宛てられてしまった為に、今こうしてなかなか就職出来ない状況になっている。



何故、なかなか出来ないのかと言うと彼の学歴が「中卒」で止まっているのが問題なのである。



たとえ中卒でも書類審査は通る事は、もちろんある。だが次の面接の受け答えが何よりの、きっとこの男が就職できない何よりの問題であろう。



面接では当然聞かれる事。
「中学卒業してから今まで何をしていましたか?」
この質問。この質問に答えられない。



何故、答えられないか。
それは彼が中学卒業して直ぐに[拉致られたから]だ。



彼は何事も無い平凡な中学生活を過ごし、高校も平凡な公立に決まっており、何事もなく中学を卒業し高校へと進む予定だったのだ。



たが、彼は中学の卒業式の帰り途中に突然ある男に拉致られたのだ。



そのせいで拉致られてからの空白の7年間に何をしていたか答えられないでいる。もちろん|試行錯誤《しこうさくご》しているのだが、正直に「拉致られていました。」と言っても、「は?」という言葉が帰てくる。
また嘘を言おうとしても、特に資格を取ったりした訳でも無ければ、何か特別な事をした訳でもないので良い嘘が思い付かないでいた。



なので、なるべく面接がなく中卒でも良い会社を探して受けている。が、これまた中々うまくいかない。



(なんで、こんなことになったんだろうな・・・)



どこか遠い目をしながら靴べらを使い革靴を履く。





今日も1日中、就職活動。





彼は絶望した表情で玄関のドアノブに手を掛けてドアを―――



「あっ・・・」



開ける前に何かを思い出したらしく、早足で部屋に戻っていく。



「あぶねぇ、忘れる所だった」



男が取りに戻った物はギターケースだった。しかし、ギターケースを持ち上げると「ガタン」と、まるでギターとは別の、サイズの合ってない何か、が入っている様な音がした。



「よし・・・行くかぁ・・・」



ギターケースを背負い、再び靴べらを使い革靴を履き、玄関のドアノブに手を掛け、ドアを開ける。
するとそこは――――















特におかしい所はなく、彼がいつも玄関を開けたら目にしている光景だった。マンションの5階に住んでいる彼は向かいのマンションが見えるだけのどうでもいい景色を見ながらエレベーターのある方へと歩きだす。



エレベーターに乗り、目的地である1階のボタンを押す。するとエレベーターが動きだし、1階を目指して降りていく。エレベーターが下りていく特有の感覚を感じながら待っていると「1階です」と階を知らせる無機質な声がエレベーターから発せられる。



エレベーターのドアが開いたので、彼はエレベーターから降りていく。



1歩―――2歩――――



そして彼がエレベーターから完全に出た瞬間―――――






















辺りは草原になっていた。




「・・・・・・・・・・え?」



しばしの沈黙の後に驚きの声を上げる。そして直ぐに後ろを振り返り、地上1階に自分を運んでくれた現代社会に欠かせない物、エレベーターの存在を確認する。



(・・・・・・・・・・無い)



しかし、そこに有ったハズのエレベーターは影も形もなくなっていた。代わりに、という訳ではないが、少し遠くの方に森林があることを発見した。



彼はとにかく何故自分がここにいるかを考えた。



たが、当然の如く答はでない。
何せエレベーターを降りた瞬間に辺りの景色が一変したのだ。
ワープやテレポーテーションなどの頂上現象の類い。
こんな事は現代の日本では基本的にありえない。



(一応、一番可能性があるものは催眠術的なものか?)



催眠術かそれに近いものを使い意識を飛ばし、その間に移動した。こう彼は推理した。



もし現代の日本でこのような事をもし出来るとしたら催眠術が一番可能性があると考えたのだ。



(でもなぁ、一瞬で催眠術なんて掛からないしな…)



催眠術は時間を欠けて相手に掛ける物であり、一瞬で意識を飛ばすのは不可能なはず。と考え直し、先程の可能性を否定していく。



(考えても答えでないな…これ…)



今のままでは情報が少なすぎるのでこれ以上の思考は無駄だと判断し、次に何をするかを考えながら、辺りを見渡す。



辺りは見渡す限りの草原で、後ろん振り返った時に少し遠くに見えた森林ぐらいしか、めぼしいものはなかった。



しばらく考えたあとに、何を思ったのか遠くに見える森林を目指して歩きはじめた。



歩きながら、これは日本ではありえない光景だな。そう思い彼は冷や汗を掻いていきながら森林に向かって歩いていく。






























日本ではない。それもそうだろう。
彼は知らないが、そもそもここは世界そのものがちがう。







異世界なのだから。



 
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とりあえず、1話です。短いですが、次からはおまけも含めてだいたい3000文くらいになります、